中国向け金属“原料”貿易は、もはやものづくり

ここのところ、朝夕の風がとても心地よいです。しかしながら、からだの方は、この急激な変化に適応できていないようでして、本調子とは言えません。ベースメタル相場も、相も変わらず、よくわからない。巷のメタルスクラッパーと話をしていても、やれ、メーカーは高く買わないだとか、まあ、輸出向けもそれ以上に“渋い”だとか、絶対的に断言できることは、「市況改善なし」ということです。

これまで散々言及してきた、例の“既定路線”の件ですが、だんだんと想定通りのきな臭さを帯びてまいりました。前回のポスト、『中国バッシングで米国企業が割を喰っていますが、その狙いはなんでしょうか』にて、「それぞれの業界に支持母体があります。果たして、両業界へのコンセンサスは、卒なくとれていたのでしょうか」という提言をしました。その“両業界”とは、まさに「原料を欲している側」と「税金を徴収したい側」です。

その「なんとしてでも、原料を安定的に集荷したい側」が、あらゆる手段を講じて、物量の確保に動く一方で、「なんとしてでも、付加価値の高いモノから税金を確実に取りたい側」は、一生懸命裏をかくために画策します。これは、どこにいっても法規制や税を少しでも回避するために行われる、A対Bの攻防戦です。ここで厄介なのは、この対立構造のなかで、利権を生み出すCとDという人間が存在するということです。

各種利権構造一覧

代表的な一例が、需要家側に対して「滞りなく荷物が流通できるよう、役人に話を付けますよ」という方々。一方で、税関側に対して「そんなに(輸入貨物が)信用できないのであれば、私たちが現地で確認してきますよ」という方々。

かつて、米国におけるゴールドラッシュ時代、なにが一番儲かったのかといえば、あるのかないのかわかりもしない金鉱で働く労働者なり、採掘事業に進出する業者への物品の販売やら、斡旋、コンサルティング、リーガルマターの対応などであったそうです。

おそらく、これまで対中国向けの“廃棄物”貿易で、リスクゼロの安定商売を築いていたのも、米国のそれ同様、商機の中心ではなく、その周辺にぶら下がる企業であったのだと思います。そして、今、熱量の小さくなってしまったマーケットの惨状を目の当たりにして、彼らは、彼ら自身の権益を必死に守ろうともがくのです。

誰がために鐘は鳴る

久しぶりに、欧州を中心とするリサイクル業界の組合である、BIRのウェブサイトを確認しました。すると、今般の“既定路線”に関する情報が掲載されていました。一部の国内業者筋でも話題にされている、「業者の登録制度」に関する実務的な説明です。

事の表層的な部分しか追えていないので、実際のところ、どのように運用されていくのかは、一切わかりませんが、第一印象としては、「誰のための制度なのか」ということです。政府の施策ではないし、いち業界団体が、ある程度の口添えを税関に対して行うことはわかるのだけれど、じゃあ仮に、なにか起こったときに、誰が責任をとるのかといった具体的な指針も見えてこない。

ひとつ、明確に“おもしろいな”と思わせるくだりがあります。それは、「出荷前の検査を実施する」ということです。大風呂敷を颯爽と広げてみたものの、結局のところ、やれることといったら、前と変わらないわけです。そして、そこには検査対象となる項目も、高らかに宣言されておりますが、蓋を開けてみれば、「3年以上の貿易経験あるか」だの「実態のある企業か否か」など。要は、「中国向けの“廃棄物”貿易をする上での通関上の“温度感”なり、今後、中国が求めていく“原料”がなんたるか、ということについて精通している業者なら、安心して国境を跨がせてやろうじゃないか」ということだと捉えています。

伏線の回収

中国向けスクラップ輸出、溶かせばいいのか (2019/10/27)』

込銅(ISRI基準で言うところの"Birch/Cliff")なんかは、結局なところ"miscellaneous(=雑多である)"が基準の中で認められています。こういった不確定要素、かつての"旨味"は、おそらく排除されるであろうと思いますし、されなくとも厳しい目が向けられることとなり、なんらかの制裁を受けるようなリスクが出た場合においては、買う側も売る側も、当然のごとく躊躇するでしょうし、流通も細くなると思います
今後、仮に6類が完全禁止になり、成分が確かなもの、先方が仰る"原料"しか流通しなくなった場合、なにが起きるのでしょうか。個人的な感覚論で恐縮ですが、筆者が税関の人間で、「手堅く、間違いなく税金を獲得する方法はないか」そのように考える必要に迫られた時、恐らく上司に提案するとしたら、「あのお、やはり、拡大解釈できる表現はやめるべきだと思うんです」などと言うかもしれません。

世界のあちこちで、ポジショントーク砲が炸裂しています (2020/01/23)』

もしこのまま、[“既定路線”]が適用されるとしたら、「本当に困ってしまう」のは、米国のサプライヤー陣だと考えています。なぜなら、彼らが一生懸命作り上げた「ISRI独自の品質基準、商品性を担保していた解釈を、中国の"それ"が蔑ろにしている」からです。

非鉄金属スクラップの世界に、専門商社はもういらない (2020/04/13)』

米国のリサイクル協会であるISRIには、貿易部会という名の"非常に閉鎖的な"会合の場があるわけです。その会員のなかには、中国やインドなどに事務所を置く、大手のスクラップ業を営む会社の役員、経営者が多く含まれているわけです。日本の某上場会社も参加しているはずです。いわゆる、権力者たちの集いです。もっと簡単に言ってしまえば、「中国にスクラップを流通させるための結社」です。そして、とても不思議なことなんですが、その"御大"が、いわゆるISRI規格を策定する部会の重役でもあるんですよね。
筆者がひとつ挙げるとすれば、"QC機能"ではないでしょうか。こう言うと、「スクラップに品質管理かよ。もはや、ものづくりだな」と思われるかもしれませんが、その通りだと思います。バイヤーサイドとしては、「我々の欲しいアレ」をわかってくれるトコロがあれば安心できるし、セラーサイドとしては、「ウチの品質は、実はアレなんだよな」といった不安を払拭することができれば、彼らも安心できます。今後、スクラップ貿易の現場でも同様に、「出荷前の品質を確かめたいんだけど、コロナのせいで、サプライヤーの国に入国できない」という事態に当然発展すると思います。そういったときに、なんらかのかたちで品質を担保する術が求められるはずです。

手前味噌で大変恐縮ですが、左記の通りになりそうです。件(くだん)の“検査項目”の中には、「QA(Quality Assurance)=品質保証が適正に機能しているか」という項目があります。年に一回の定期監査も行うような言及がございます。かつても、このような要求事項は存在していたのでしょうか。

時代は、「もはや、ものづくり」です。

参照:"英文版出炉—再生铜铝原料国外供货商及国内收货人资质认定的管理办法"

蛇足

2020年度11回目のライセンス付与先と数量が公表されていました。

10、11回目の銅に関連する事業者の内訳を比較してみましたが、ほとんど南部の浙江省台州市、広東省清遠市・仏山市に所在する企業で、一部天津もありましたが、微々たる数量です。中国における銅関連の企業が、いかに南部に集中しているのかということがわかります。

参照:"Chinese quotas for waste & scrap imports: full list of 11th batch 2020"

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