EUグリーンディール産業計画: 銅は「クリティカル」かつ「戦略的」に
試しに、これまでのウェブデザインを変更しました。モバイルでの表示に対応したテーマの採用に至りました。昨今の SEO 対策は、「モバイルフレンドリーであるか否か」という点は、重要である以前に、“当然の対応”だと認識されているようです。
恐らく、弊ブログの読者の皆様方におかれましては、デスクトップからブラウザを開いて、20年前と変わらぬ方法で、ご覧になっていることと思います。これまで、そういった読者様向けのコンテンツづくりをしてきたつもりです。
個人的には、弊ブログのコンテンツ自体が、“モバイルフレンドリー”ではない、冗長的な駄文であると強く認識している次第ですが、時代には抗えません。
新デザインでは、モバイル環境、タブレット環境でも、視認性良く閲覧できると思いますので、引き続き、ご愛顧のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
銅は、“戦略的原材料”であり“クリティカル”
事の要旨を掻い摘んでお伝えします。
- EUには、“クリティカル・ロー・マテリアル (Critical Raw Materials: CRMs)”に対する、域内規制・大綱が明文化されている
- 2011年、14のCRMsリストが発表された
- 3年ごとにリストを更新することが決定している
- 2023年、グリーンディール産業計画に則り、新たな枠組み構築に向け動いている
- 2030年までの施策実現のために、定量目標を策定
- 当該目標に則り、“戦略的に”調達を行う対象を、“ストラテジック・ロー・マテリアル (Strategic Raw Materials: SRMs)”として抽出する
現在、欧州では、「これまでの CRMs に対する規制・思想だけでは不十分である」といった認識が強くなっている模様です。なにが不十分であるかというと、「物資の囲い込み(製造・回収・調達)を行う上での戦略性と定量目標」です。特に、域内単体での増産や新規鉱山開発、資源循環が難しい原料に関しては、悲観的なシナリオしか描くことができない様子が、まざまざと伝わってきます。
つまり、「重要なことは、クリティカルな問題として考えねばならない」といった、“小泉構文”で物事を捉えていたら、他の地域との物資争奪戦に負けてしまう可能性が大いに現実のものとなり、焦っているということだと思います。その“焦り”に呼応する形で、今般の SRMs という新しい概念が作り出されたようです。
では、具体的に、なにが“クリティカル”なり、“ストラテジック”の対象となり、なにを定量目標とするのか。
グリーンディール産業計画の現況
参照: European Commission - "Critical Raw Materials: ensuring secure and sustainable supply chains for EU's green and digital future"
対象となる原料
下記、2023年案の中で対象としている CRMs 一覧。太字は、 SRMs を示す。
(1)Antimony, (2)Arsenic, (3)Bauxite, (4)Baryte, (5)Beryllium, (6)Bismuth, (7)Boron, (8)Cobalt, (9)CokingCoal, (10)Copper, (11)Feldspar, (12)Fluorspar, (13)Gallium, (14)Germanium, (15)Hafnium, (16)Helium, (17)Heavy Rare Earth Elements, (18)Light Rare Earth Elements, (19)Lithium, (20)Magnesium, (21)Manganese, (22)NaturalGraphite, (23)Nickel–batterygrade, (24)Niobium, (25)Phosphaterock, (26)Phosphorus, (27)Platinum Group Metals, (28)Scandium, (29)Siliconmetal, (30)Strontium, (31)Tantalum, (32)Titanium metal, (33)Tungsten, (34)Vanadium
SRMsの定量(努力)目標
JETRO - 『欧州委、グリーン・ディール産業計画の一環として重要な原材料法案を発表』
- 域内年間消費量の最低10%を域内で採掘
- 域内年間消費量の最低40%を域内で加工
- 域内年間消費量の最低15%を域内で生産したリサイクル原料で賄う
また、加工段階にある各SRMに関して、1つの域外国からの輸入を域内年間消費量の65%の水準まで引き下げる。
権益の囲い込みと資源需給の管理
欧州が高らかに歌い上げたのは、「倫理的に問題のある鉱山から、原料を買うのはやめよう!」とか、「環境保全のために、リサイクルを推進しよう!」だとか、そういった類の“グレタ節”ではありません。純粋に、「資源の囲い込みと、資源需給の管理」であると考えています。
JETRO記事を、まるまる引用しますが、腹の底で考えていることは、非常に明白です。それにしても、「重要原材料クラブ」とは、なんとも“香ばしい”ネーミングでございます。
- 域内におけるCRMの供給上のリスクを緩和すべく、欧州委がサプライチェーンを監視するとともに、加盟国が実施するSRMの備蓄の調整を行うと規定
- 加盟国により指定を受けた、SRMを原料に使用して戦略的技術を製造する大企業に対しては、サプライチェーンに関する監査を実施することを義務付け
- 域内の事業者および加盟国が自主的に参加できる、SRMの共同購入の枠組みについても規定
- 米国などの立場を同じくする域外国とともに、CRMの消費国と供給国の連携を図るべく、「重要原材料クラブ」を立ち上げる
要するに、「どこで仕入れた」のか、「どれだけの需要がある」のか、「どれだけの在庫がある」のか、「どれだけの供給責任を全うできる」のか、「いつまでに供給できる」のか。そういった情報を一元管理し、物流網を構築するための施策です。この取り組みの中で、中小零細企業が、イニシアティブを執れる可能性は皆無に等しく、既得権益層に紐づいた大企業が利することは、素人でも察しがつきます。
国連も一緒だよ
実際に、国連でも、当該経済政策に乗じて、“枠組み”に関する提言があるようです。国際連合欧州経済委員会 (UNECE: The United Nations Economic Commission for Europe) のアルガヨワ事務局長曰く、「EU重要原料法が採択されれば、すべてのEU加盟国において、 UNFC の利用が可能になる」とのこと。
参照: UNECE - "UN Framework Classification for Resources will be instrumental in the EU Critical Raw Materials strategy"
UNFC とは、"The United Nations Framework Classification for Resources"の略とのことで、端的に申し上げれば、「欧州域内における資源掌握プラットフォーム」ということにある。
政策の枠組み、政府の監督、業界のビジネスプロセス、効率的な資本配分を調和させるユニークなツールとして、UNFCは現在と将来の社会のニーズに必要な天然資源を管理し、持続可能な開発目標(SDGs)の目標を実現することができます
参照: UNECE - "United Nations Framework Classification for Resources (UNFC)"
本当に、「持続可能な開発目標」が機能してゆくのか、そんなことはどうでもいいですが、“グリーンディール産業計画”は、粛々と実行に移されます。
銅は、どうですか
相も変わらず、国連と欧州連合は、“崇高な目標”を掲げ、キレイごとばっかり言っていますが、今般のグリーンディール産業計画は、予定されているリセッション以後の経済活動を支える重要な大綱であり、絶対的な成功が求められています。
日本政府が、当該大綱に対して、どのようにコラボレーションを推進してゆくのか、ひいては、日本の素材産業ならびに、資源循環技術がどの程度利用されていくのか。そういったハナシは、表面上、未だに明らかになっていません。
しかしながら、昨今の共同製錬体制の再編や、大手の注力事業の明確化などを鑑みると、銅に関しては、少なからず、欧州地域との“コラボレーション”が既にいくつか検討されており、それに基づいて、大手の動きが決定づけられているのかな、そんな風にも考えてしまいます。
その“コラボレーション”というか、“日本の役割”が如何なく発揮できるとしたら、“ロンダリング”でしょうか。ハナシが迷走しそうなので、今回は、ここまでとさせていただきます。
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