元気のない欧州リサイクル界隈

やばいです。「ネタ、完全に尽きた感」がビンビン、レンビンビです。

フィリピンのゲットーを歩いたときに感じるような、ヒリヒリとした「なんか、やばくない?」的な“焦燥”が、業界に充満しております。

恐らく、同様の事態は、静脈産業に限った問題ではないでしょう。しかしながら、我々の産業は、「動脈あっての静脈」ですから、血の巡り(経済活動の脈動)が悪くなったりすると、極端な影響をダイレクトに受けます。

カタログ商売の行く末

先日、とある老舗スクラップ問屋の社長さまに、近況についてお伺いしました。その中で、とても印象的だったのは、「あの会社(競合他社)さん、雑品屋になっちゃったよ!」という指摘です。

事の顛末は、下記の通りです。

  1. カタログ単価表」をウェブ配信し、一躍時の人(会社)に
  2. その“単価”は、東南アジアの日本向けスクラップ・ディーラーが参照するほどまでの影響力を持つ
  3. 各地に支店を増やす
  4. 日本国内での価格競争が激化し、やりにくくなる
  5. ビジネススタイルの模倣が起こり、競合が雨後の筍のごとく生まれる
  6. “カタログ”が業界の当たり前になり、もっと、やりにくくなる
  7. 高値を提示しても、集荷できなくなる
  8. “カタログ”にない、雑品類(言うなれば、ゲテモノ)の集荷に奔走する(←イマココ)

「本末転倒」と評すべきか、「原点回帰」なのか、そのへんは、判断いたしかねますが、明らかに、ビジネスモデルの転換に迫られているようです。

この「カタログ商売」は、日本のハイ・ファッション業界などでも、一時期問題視されていた事象です。

元来、「“クリエイティブ”かつ、筆舌しがたい“感性”を売りにしていたファッション業界」において、雑誌の一面を「紋切型のごとく統一されたレイアウト(枠組み)」で覆い、「誰にでもわかるよう視点」でドンドンドンと、「ただただ“商品”の写真を並べる」ような行為は、全くもって“ナンセンス”だと、そのような議論が交わされたとか。

例のごとく、ハナシが飛躍しましたが、要は、「ただのクズでも、こんな感じなら、買いまっせ。但し、こんなん付いたまんまだと、こんだけ安くなっちゃいます。あと、よくわからんモンは、ウチのヤードに持ってきてくれれば、とりあえず値段つけれるかも」と、客を誘導するまでのマーケティング手法と判断基準を、短く明文化して、さらに公開しちゃったわけです。

特に、金属くず商は、「専ら物」の分野の中でも、取り扱う商品の単価が比較的高く、参入障壁の低い業界の代表であります。そういった環境の中で、ノウハウが“オープン・ソース”になっているわけですから、誰だって「やってみよう」となりますよね。

締め上げることが最適解なのか

昨今、中華系を中心とした、「外国人オーナーの営むスクラップ屋」の進出や、それに伴う近隣住民とのトラブルが頻繁にメディアで取り上げられています。また、玄人界隈でも、「外国人ヤードが、相場を荒らして困っている」等、多種多様な文句が飛び交っています。

しかしながら、本質的に、「誰でもできる土壌」をつくったのは、“彼ら”ではありません。「倫理的には、社会規範から逸脱しているけど、法律に違反していない」ことを、俗に“脱法”などと呼んだりします。(人によっては、商売上の“ニッチ”と定義する者もいるかもしれませんね。)

究極を言ってしまえば、廃棄物処理法で規定されている、「専ら物」の特例を撤廃し、許可制度を導入すれば、参入障壁自体は、高くなります。そうすることで、少なくとも、法の“隙間”を搔い潜ってまでして、「専ら物」の廃棄物処理業に参入する人間は、少なくなるかもしれません。(法を犯す人間は、絶対的に撲滅できません。)

また、金属くず業界におけるプレイヤーが少なくなれば、必然と競争の激化もなくなりますし、相場が安定します。自ずと、金属くずを取り扱いできる業者のマージンは、ある程度潤沢に確保できると思います。桃源郷のような世界です。

銅やニッケルなどに代表される、≪クリティカル・マテリアル≫に関しても、そういった秩序ある資源再生の枠組みが実現できた暁には、政府による戦略物資コントロールが可能だし、実需に沿った開発計画が擁立できます。

でも、現実はそうではない。なぜか?

それは、「各種許認可を持ち合わせていない、対応ができない中小零細」が、海外資本の“妖しい業者”以上に、星の数ほど存在しているからです。数多の星々の間に、利権が横たわっており、日本式システムを維持するために、潰せないのです。

例のごとく飛躍しますが、政府の標榜する、サーキュラー・エコノミー実現のためには、その“利権構造”を解体する外、手立てはないと考えています。アルファベットの「AからZ」までの商流を構築する際、もし、「A→Z」が可能であれば、「A→B→C…→Z」は、必要ないはずです。ただ、日本式システムでは、「AからZ」までの利害関係者の総意があって、大きな案件が動きます。

要するに、既存の“専ら物業者”が、排外的な政策を推進すればするほど、彼ら自身の首を絞める事態に陥りかねないということです。そして、場合によっては、“彼ら”に群がる利害関係者の利益を損なう可能性さえも孕んでいるわけです。

また、もし、仮に“妖しい業者”が、順法の精神で真っ当な商売を行い、正式なプロセスで輸出行為を行い、外貨を獲得し、国内の法人に投資を行っていたら、どうでしょう。(若干、色んな意味で悪意のある設定であると認識しつつも。)

そもそも、「国際商品(コモディティ)」として流通できる物品の製造、加工を行う業者を規制する行為自体が、国益に反するわけです。資本主義的な文脈では、自由な競争を容認する市場があるからこそ、豊かな社会を形成できるものと考えられています。

故に、 「Aという会社は、○○という商品を、市中からXX円で仕入れ、買い占めを行っている。本来、○○は、YY円でしか販売できない。利益がほとんどないにも拘わらず、その値段で買うのはおかしい!市場価格を操作しようとしているんじゃないか!いや、きっと悪いことをしているに違いない!」と捲し立てる行為が、ナンセンスなのです。

もしかしたら、○○という商品は、海外で△△という商品名で、より高い価格で取引されているかもしれませんし、ただ単に、A社は、相場が「YY円以上になる」と、見越しているだけなのかもしれません。もっと高く売りたければ、B社は、A社同様に市場を変えるか、相場の変動を待つしかありません。それだけです。

欧州のリサイクラー組合による市況分析

ここで、恒例となりました、BIR (Bureau of International Recycling) が発表している、ニュースの分析に入りたいと思います。(BIR は、安易な表現で説明すると、欧州のリサイクラー組合です。)

5月11日、会員向けに、各業種ごとの現状報告と、今後の市況予測・分析が報告されたとあります。そして、その一部の内容を、一般向けに公表しているようです。今回は、その公開された内容について検討を行います。

参考: "BIR World Mirror on Non-Ferrous Metals: Lower LME values add to difficult trading conditions"

要点は、下記の通りです。

  1. 非鉄金属原料市場の状況: 非鉄金属原料市場、現在困難な状況にある。要因の一つは、LMEにおける相場の低迷
  2. メキシコの事例として、「一部のスクラップ業者が、マージンを圧縮して入荷量を維持しようとしているが、スクラップが全体的に少なくなっている。盗難も増えている」ことを言及
  3. 日本の事例として、「海上運賃が下がり、中国への輸出が増加しており、国際市場を維持する上でプラス要因」との評価あり。
  4. 一方、パキスタンの事例として、「米国や欧州からの輸入が減少し、銅スクラップの供給が逼迫」とも
  5. 金属スクラップにおけるインド規格(BIS)の導入に関して。「インドのマテリアルリサイクル協会と同国政府との間で、定義や手続きに関する相違が生じている」模様

世界と日本

世界的に、業界・マーケットともに、「良い状態にない」ということは、間違いなさそうです。日本に関する評価もありましたが、個人的には、運賃安が継続したとしても、瞬間風速的に輸出量が増えることはあるかもしれないが、定常的に輸出量が増加することは、考えにくいのではないかと捉えています。なぜならば、日本も各国と同様に、スクラップ自体の発生量を、劇的に増やすことのできる、好材料を持ち合わせていないからです。

パキスタン向け雑品

東アジア事情として、「パキスタン、主要国からの集荷厳しい」という指摘は、「雑多なスクラップ自体の発生が、主要工業国において、減っている」という可能性を強く抱かせます。パキスタンは、中国が「雑多なスクラップ」の輸入を禁止したのち、それらの代替加工拠点として、欧州目線で有力視されていた国であります。

もしくは、「発生はしているけど、主要国から輸出できない」といった事態も考えられますね。なぜならば、欧州地域は、域外への“金属原料”の出荷を制限する動きにあるからです。実情は、確かではないですが、「欧州産の雑多なスクラップの流動性」が鈍っていることは間違いないようです。

インド向け原料

また、インドにおける、「スクラップ原料の規格化」に関しましては、多方面から注目を浴びている事象ですが、なかなか具体的な方針が定まらない印象です。筆者の知る限りでは、「インドは、スクラップを必要としているけど、国内産業の保護を理由に、ドラスティックな方針転換(スクラップ買いまっせ!)を渋っている」ものと理解しています。

スクラップを使うことで、温暖化ガスのオフセットやら、環境的な文脈においてのメリットがあることは、十二分に理解してはいるが、鉱業セクターやら、国内の二次原料セクターのエコシステムなど、守るべきレガシーの壁が、我々の想像以上に厚く、変革の重しになっているのかもしれない。

中国向け原料

こちらの検証内容は、記事と一切リンクしていませんが、あまり言及されない事実として、筆者からひとつ提起がございます。

こちらの表は、中国政府による、'17年(「雑多なスクラップ輸入禁止」以前)と、'22年(輸入禁止以後)における、世界各国の「中国向け輸出統計≪銅のくず≫」を単年度で比較した数値になります。各国の順番は、'22年の輸出量の大きい国から順にランキング形式にし、トップ20のみを抽出しました。

このふたつの要素の間、殊に日本のデータに大変興味深い要素が含まれています。特記事項は、下記の通りです。

  • 最近の傾向として、北米は、40万トン弱ほどを輸出。欧州、日本は、それぞれ25万トン弱を輸出
  • かつて、北米は75万トン強ほどを供給していた
  • 所謂、先進国からの中国向け輸出は、総じて減少している
  • 日本の供給量は、ほとんど変わっていない
  • 日本の取引単価(FOB)は、比較的高い

往時(輸入禁止以前)は、様々なものが、同一の通関コードで取り扱われていたものと考えられますが、現在のような通関基準が厳格化された状況下においては、各国より供給される“原料”の特性は、金属純度の高い、似通ったものであると考えられます。

そのように考えると、「日本産の物品取引単価が、他国に比べて割高である」という事実は、着目する価値があるのではないかと考えるのです。

この比較データひとつで、いくつもの面白い仮説が立てられますが、まずは、'23年データが集計できたタイミングで、「今年も、日本は、同等水準の供給量を誇り、高値で売却しているのか」という検証ができれば、最近のトレンドや、「なぜ、高いのか」という、さらなる検証も可能になろうかと思います。

昨今、貴金属を中心とした都市鉱山開発の文脈にて、世界の中での日本が果たす役割、プレゼンスが、非常に大きくなっている印象を受けます。今後の日本の立ち位置については、こちらのブログにて積極的に、報告をさせていただきます。

変わらぬご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。また、なにかコメントや要望等ございましたら、右の問合せフォームより、ご連絡ください。

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