ポケットにブローニングを | 稀代の相場師、是川銀蔵について

ここのところ、下世話でネガティブな話題ばかり続いてしまいました。手前の事業運営方針も、そろそろ明確にしなければ、この先、飯のタネを失いかねません。今回は、この自粛期間中に、非常に感銘を受けた書籍がございますので、こちらの紹介をします。



戦略的に、他人と違うことをする

とにかく、"ぶっ飛んだ"御仁です。老舗の非鉄原料問屋の社長とお話をすると、こういった類の破天荒な武勇伝を拝聴する機会に恵まれます。まず、どれだけ"ぶっ飛んでいる"のかという点について、筆者の琴線に触れた箇所を抜粋します。

<ぶっ飛びポイント>

  • 十代で単身中国に渡り、軍人と商売をしていた
  • 関東大震災が起き、トタン板を買い占めた
  • 菱刈金山のポテンシャルに、いち早く気づく

どう考えても、ぶっ飛んでいますよね。幼少期から、大変なご苦労をされているので、そこから読み始めると、「そういう時代もあったんだなあ」とか、「大志を抱くとは、まさに」といった感想に帰結するんですが、それにしても、中国での武勇伝は、小説にもひけをとらない。

毎日、ポケットにブローニングをつっ込んで自分の死に場所を探してさまよっていた。

いや、どう考えてもおかしいですよね。日本人青年が中国で事業を起こし、路頭に迷うエピソードです。実は、この回想にたどり着く前に、是川さんは、一度、同地に足を踏み入れています。つまり、2回目の中国での出来事。それまでのおおまかな流れは、下記の通りです。

  • 16歳で貿易会社での退職金を携え、大連を経由地とし、ロンドンへ向かう心算(こころづもり)があった
  • そこで、第一世界大戦が勃発し、路頭に迷う
  • 軍人との商売に商機を見出し、随行するも相手にされない
  • 青島までの250キロをひとりで歩き、なんとか日本軍の寄宿する地までたどり着き、保護される
  • そこで雑用係の仕事を得て、食料・日用品の購買担当になる
  • 最終的に同業者のタレコミで捕まってしまい、日本へ送還されることとなる

感覚的になにが儲かるのかわかる

上記は、1回目の挑戦。そして、日本へ送り返されるわけです。間も無くして、彼の少年は気付くわけです。「やはり商売で儲けるには中国しかない」と。おかしいですよね。ぶっ飛んでいますよね。そこから、半年もしないうちに、大陸へ向かい、事業を起こします。

その事業とは、中国の一厘銭を同地で精錬し、日本国内へ輸出すること。その当時、「(中国人の資産家は、)銀行に安心して現金を預けることができなかった」ので、「(彼らは、)地下の倉の中に山のように一厘銭を積み上げて持っていた」らしい。金属需要の高まりを受け、その「一厘銭千枚分をインゴットに」して、「二円から二円五十銭で捌」くことができたようです。

最終的には、戦況が変わり、とある軍人の誘いに絆され、大金を失い、事業ができなくなります。その時の回想がまさに、ブローニングに繋がるわけです。ちなみにですが、これは、是川さん19歳当時の回想になります。

以下、完全に蛇足。鎌倉の大仏さんを鋳造する際に使われた主な原料は、"宋銭"と言われています。真偽は定かではありませんが、その当時の日本国内での銅と金の価値、輸出した際のそれぞれの価値を勘案すると、鎌倉幕府が、大仏建造の原料としてスクラップ原料(中国の古銭)を使用することは、理にかなっていることは間違いないようです。史実としては、その当時の日本における銅価換算の三分の一で、輸入スクラップが買えたそうです。(ちなみに、金の輸出相場は、国内の2倍に及ぶとか。)

参考:『金属を通して歴史を観る』http://arai-hist.jp/magazine/baundary/b16.pdf

時代は繰り返す

もう、既にこの段階で"お腹いっぱい"の情報量なので、ここから先の是川さんの人生については、著作を是非読んでいただきたいと思います。

この回想録を読了後、ひとりの"相場師"の生き様をまざまざとみせられ、正直、「自分が、こんな破天荒な生き方を真似できるのか(いや、できないな)」と、ただひたすら面食らうのみでした。しかしながら、是川さんの人物像を、この著作から取り除くと、もうひとつの側面が浮き彫りになります。

時代は、少しずつ姿かたちを変えながらも、結局は、同じようなところに回帰するということです。それが、相場でもいいですし、時代に持て囃されるものでもいいですが、だいたい原点に戻ってくるわけです。人間のサガとでも言いましょうか。なんだかんだと新しい物事をつくっているようで、本質は人間の想像力なり、創造する力の域を出ることはないのでしょうね。

仮に、現在が、史上稀なる非常事態なのであれば、この先、近い将来、空前絶後の好景気が待ち構えているということを、歴史は強く物語っています。ただ、それがいつ到来するのか、どの程度まで成長するのか、ということまでは教えてくれませんが、「悪くなれば、いずれ良くなる」ことに間違いはありません。是川さんの回想にもありますが、自分が"やれない"時機、"やるべきでないタイミング"の中にいるときに、どれだけ耐え忍ぶことができるか。また、学びの灯火を絶やさず、いかにして腐らずいられるか。とても難しいことであると思いますが、実践していきたい。そのように考えております。

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