不可抗力事項(フォース・マジュール)を行使されたとき、なにができるか

段々と、「(くだん)のウィルス騒動についての報道に"キレ"がなくなってきた」ように思うのは、筆者だけでしょうか。筆者個人の感覚でしかありませんが、メディア側での"新しいネタ"が出てこない。つまり、糞詰まりのような状態にあるのではないでしょうか。隣国が成功モデルをもとに、国際政治における新たなポジションを確立しようと蠢く姿を横目に、我が国の状況は非常に芳しくない。そのように理解をしております。



ウィルス織込み済みですが

貿易および法律世界に、「フォース・マジュール(Force Majeure)」という用語があります。商社やフォワーダーにお勤めの方であれば、ご存知のコトバだと思います。いわゆる、契約書に明記する「不可抗力事項」というヤツです。もっと、ざっくばらんに噛み砕くと、「ごめん!うちの会社(国)じゃ、手のつけようもない緊急事態が発生したんだよ。だから、この契約なかったことにしてくれ!」といった感じの意味合いです。今般のウィルス騒動が問題視され始めた頃、スクラップ貿易においても、当該事項が行使され、多くのサプライヤーさんが、大変苦しい思いをされたというハナシは、聞いております。

参照:株式会社日立総合計画研究所 "Force Majeure"
Force Majeure(以下、フォース・マジュール)」とは、「不可抗力」を意味するフランス語であり、地震・洪水・台風・戦争・暴動・ストライキなど、予測や制御のできない外的事由全般を指します。フォース・マジュールに類似する概念として「Act of God」(神の行為)がありますが、Act of Godが地震・洪水・台風などの自然災害に限られるのに対して、フォース・マジュールは、自然災害に限らず、戦争・暴動・ストライキなど人間によって引き起こされる出来事や事情も含むところに特徴があります。

(例のウィルス名を言及すると、色んなフィルターに引っかかるので、あえて"C19"とします。)今、まさに我々は、"With C19"の時代を生きています。つまり、誰しもが、"非常"の中で生かされているわけです。そんな"With時代"に、例えば、あなたが貿易金属屑商だとします。毎月、100本のコンテナを世界各地に出荷しています。出荷してから、一週間なり数週間後に、仕向地の港に到着するわけです。ある日突然、大口の買主から、「C19の影響で、契約の履行が難しくなった。申し訳ないけど、契約は破棄とさせてください」と連絡を受けます。でも、その翌日には、違う仕向地にある小口の買主から、「振込しました。サレンダーお願いします」などと連絡が来るわけです。

それぞれ違う

困りましたねえ。だって、AさんとBさんで言ってることが違うわけです。もっと、事態を深刻にしかねないのは、AさんとBさん、両者ともに同じ国に所在していた場合です。Aさん(大口買主)が、コンテナを引き受けできない本当の理由は、もしかしたら「お金がない」ということかもしれない。ただ、特殊な状況下なので、Aさんは、「C19の影響でお金がないから、契約の履行を拒否できる」と考えるかもしれないわけです。当然のことながら、問題に発展するわけですが、大体の場合は、契約書を読み返してみたら、「紛争協議の場所の指定がなかった」とか、「なんかあったら、お互い仲良く話し合って、穏便に解決しましょうね」みたいな文言しか書いていなかったりするわけです。

日本企業が、国内取引でフォース・マジュール条項(日本語の契約書では「不可抗力条項」と呼ばれる)を厳密に契約で規定することは慣行上まれでした。そのため、予防法務としてのフォース・マジュールの概念や詳しい定義、免責のあり方について日本国内では議論が十分になされてきませんでした。今後は東日本大震災の経験を踏まえ、契約に具体的に内容を規定したフォース・マジュール条項を織り込むことが検討される機会が増えると思われます。

なんで、こんなことが起きるかといえば、日本的な感性で、いわゆる"性善説"で物事を考えてしまうからです。つまり、楽観的というか、牧歌的にフワフワと「まあ、向こうも人間だしさ、なんかあったら、協力してくれるはずだよ」と思い込んでしまうのです。

いわゆる与信管理

今後、貿易依存型の商売をされている企業側でも、法務上の適正運用ができているのか、妥当性を吟味できる人材がいるのか、育成できているのかということは、とてもシビアに検討されるものと考えています。また、財務上の"与信"だけでなく、「取引先とウチの相性」だとか、「向こうの社長さんの考え方とか、人柄」みたいな部分に関しても、これまで以上に精査していかないといけない時代にあると思います。端的に申せば、「"なんとかリサーチ"の二次情報」だけじゃなく、最新の一次情報を適宜入手して、アップデートしていくべきなのでしょう。

筆者が、貿易の実務関連に携わっていた時分、とにかくハラハラドキドキの連続でした。当然、自分のささいな不手際で、膨大な損害が出るということは、考えにくいですが、これまでも、これからも、「国境をまたぐ」ということは、様々な利害関係者、既得権益者の頭の上を飛び越える行為です。彼らに失礼があってはならないし、揚げ足をとられないよう、きちんと知識と誠意をもって対応しなければならないわけです。モノづくりもそうですが、物流のように、人と人とを結びつけることの難しさ、人に動いてもらうことの難しさは、なんとも筆舌しがたいものがあります。高を括っていると、足元を掬われかねないのです。

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